茨城の民話Webアーカイブ

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岩間山の十三天狗

イワマヤマ ノ ジュウサン テング

伝説

妖怪が登場するおはなし

原文

 岩間にある愛宕山の十三天狗の話です。
 この山は昔、岩間山と呼ばれていました。山の裏側は石岡市の真家地区になります。近郊では桜の名所として知られています。少し遅めに満開を迎え、下から上にある神社に向かって桜並木が続きます。上の神社の少し手前まで車で登れ、そこからの眺めがとても素晴らしいところです。しかし、ここは十三天狗が修業していた所としても有名です。現地には「あたご天狗の森」と看板が掲げられています。
 愛宕神社は徳一法師が創建されたという古く謂れのある神社で、防火の神をお祀りしている神社で消防団の方などがよくお参りされています。しかし、天狗に関する神社はこの愛宕神社の裏手にある「飯綱神社」です。
 この飯綱神社の本尊はその裏に回ると見られますが、六角形をした金属製の塔で「六角殿」と言います。この六角殿はまた六角形の石の上に建てられ、この石は手足などをかたどった亀だといいます。この六角殿を背後から守って取り囲むように十四個の祠が置かれています。この祠は真中が本尊でその周りが十三天狗のものです。
 愛宕山(旧岩間山)の十三天狗の話は、江戸時代後期の国学者「平田篤胤」が書いた「仙境異聞」に詳しく書かれています。
 当時、江戸の町で天狗にさらわれたが、しばらくしてまた町に戻ってきたという寅吉という少年が評判となった。この平田先生はこれにたいそう興味を持ち、寅吉少年を自宅に連れてきたりして、この寅吉から聞いた話をそのまま書物に書いたのです。平田篤胤は本居宣長の後を引き継ぐ学者として有名な人で、けして作り話を書くような人ではありません。当時、平田篤胤は、神や異界の存在、さらには死後の世界に大きな興味をいだいていたといわれています。
 天狗に連れられて天狗の世界を見てきた寅吉少年の話を要約すると、
・最初に連れてこられたのは獅子ガ鼻岩という岩が突き出ていることで知られる南台丈という山であったが、そのうちいつの間にか岩間山になっていた。
・岩間山には十三天狗がいて、その首領の「杉山僧正(そうしょう)」が寅吉の師匠である。
・岩間山の天狗は最初十二天狗であったが、途中で長楽寺が加わって十三天狗になった。
・この天狗は鳥や獣などが修業をして形を変えたもので、人間から天狗になったのは長楽寺ただひとりであった。
・長楽寺は最後にこの天狗の仲間に加わり、修業を重ね空を飛ぶこともできるようになり、その十三天狗の首領となりました。
 平田篤胤は山神として天狗の存在を真面目に信じ、研究をしています。そして、その姿を絵師に書かせ、宝物にしています。この神の姿はあまり今の天狗のイメージとは違います。学研の「神仙道の本」表紙などに使われています。この絵にも下の方に白鹿が描かれています。
 また寅吉が、最初に降り立った山「南台丈」は、南北朝時代に合戦が行われた悲劇の山「難台山」のことです。天狗の鼻のように突き出した岩(獅子ガ鼻岩)があります。
 さて、長楽寺は寺の名前ですが、天狗の仲間となった時に、この天狗は長楽寺と呼ばれていました。この長楽寺について仙境異聞に書かれている内容を少しそのまま抜粋してみましょう。
「岩間山に十三天狗、筑波山に三十六天狗、加波山に四十八天狗、日光山には数万の天狗といふなり。岩間山にはもと、十二天狗なりしが、四五十年ばかり以前に、筑波山の麓なる狢打村といふ所の、長楽寺といふ真言僧ありしが、空に向かひ、常に仏道を思惟して有りけるに、或る日釈迦如来、迎ひに来たりて導きける故に、真の仏と思ひて、共に行きたりしかば、釈迦如来と化(な)り来たれるは岩間山の天狗にて、長楽寺をも其の中に加へて、是れより十三天狗となりたりとぞ。我が師は其の中にて名を杉山そうせうと云ふなり」と書かれています。
 そして、最後に加わったので、面白い言い伝えが残っています。
 人が集まる席に誰か一人が来ていないと「長楽寺はまだ来ていないのか?」「来るまで待とう」などと言うようになったそうです。
 さて、毎年12月にこの天狗の祠にまつわる「悪態祭り」という変わった祭りがあります。

 

市町村 笠間市
原文著者 木村 進
原文著者(ヨミ) キムラ ススム
生年 1948年
原文著者備考 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる
現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表
昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒
大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。
著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員
原文著者 LaLa mosura
原文著者(ヨミ) ララ モスラ
原文著者備考 イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。
媒体 zine
収録資料名 茨城のちょっと面白い昔話
収録資料名(ヨミ) イバラキ ノ チョット オモシロイ ムカシバナシ
収録資料シリーズ名 ふるさと風の文庫
民話ページ P19 〜 P23
収録資料出版社 ふるさと”風”の会
収録資料出版年月日 2016.12.1
言語 日本語
方言 標準語
備考 ¥650
収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。
奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊2)」とある。

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