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天狗になった長楽寺

テング ニ ナッタ チョウラクジ

昔話

神秘的なおはなし|妖怪が登場するおはなし

原文

 石岡の八郷地区の足尾山麓の山間に今は龍明というが、昔は狢内(むじなうち)と呼ばれていた山村がある。その狢内に昔、長楽寺という寺があった。今はここには仁王像や薬師堂が残されテレビや映画などの時代劇の撮影にも使われている。その寺に住んでいた若者が天狗になったという話が伝えられている。
 時は江戸時代であろうか、この寺は修験寺であり、そこに一人の若者と年老いたその母が住んでいた。その若者は、昼間は家で老母の世話をしながら農事をしていたが、夜になると毎日近くの足尾山、加波山、筑波山を踏破して修行をおこたらなかった。そうするうちにこの若者が祈祷すると何事でも願いがかなうという評判も広がり、遠くからも多くの信者がおとずれるようになった。
 しばらくたったある夏のこと、暑かった日も暮れた6月14日の晩に年老いた母は息子に話しかけた。
「わしも、お前がよくしてくれるので何の苦労もない、このままいつお迎えがあっても憾みはないが、まあ一つだけ願いが叶うとすれば明日行なわれるという日本一の祇園と評判の津島の祇園を一度見物したいものじゃ。しかし、津島というところはとても遠いというし、この足ではとても行くことはできないね。まあ諦めるほかはないね」
と言って笑った。
 するとこの若者はしばらく考えていたが、
「お母さん、津島に行くことはできますよ。そう遠くはないので、今から出かければ夜の明ける頃までには着くことができるので行って来ましょう」
と言って、若者は白い行衣を着て老母を背負い目がまわると困るからといって老母に手拭で目かくしをして出かけた。
 老母は息子が自分を慰めようと、何処か近くに連れていくのだと考えて、息子の背にしがみついているうちに眠ってしまった。「さあ着いた」と若者がいうので、目をさました老母は眼の前の光景に目を見張った。今まで話にはきいても見たことがない広い広い海、その浜辺に集まっている何十隻とも知れぬ大船小船が、青・赤色とりどりの旗をひるがえして、勇ましい笛太鼓のはやし、それを見物する人達が浜に群れて、その賑やかなこと。老母にはまったく夢心地であった。そして、その日も暮れ、老母はまた目かくしをされて息子の背に乗り、またいつの間にか眠ってしまって、どこをどうして帰った知らないうちに、気がつくと朝日が一ぱいに射している長楽寺の庭であった。
 若者もさすがに疲れたと見え、「お母さんわしは今日一日ゆっくり寝るから部屋へは決して来ないでくれ」とそのまま奥にいってふすまを閉めて寝てしまった。しかし、昼になり、夕刻になっても息子は起きて来ない。そして心配になった老母は開けてはいけないといわれた奥の仕切りをそっと開けて見ると驚いた。そこには大の字になって高鼾をかいている息子の肩からは大きな羽根が座敷一ぱいに広がっており、それは天狗そのままの姿であった。老母の驚く声に息子はがばっと起き上がり、腰をぬかしている老母に、
「お母さん、あれほど言ったのに見てしまいましたね。見られたからにはもうここにはいられません。」
というとどこかに姿を消してしまいました。

 

市町村 石岡市
原文著者 木村 進
原文著者(ヨミ) キムラ ススム
生年 1948年
原文著者備考 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる
現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表
昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒
大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。
著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員
原文著者 LaLa mosura
原文著者(ヨミ) ララ モスラ
原文著者備考 イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。
媒体 zine
収録資料名 石岡地方のふるさと昔話
収録資料名(ヨミ) イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ
収録資料シリーズ名 ふるさと風の文庫
民話ページ P77 〜 P80
収録資料出版社 ふるさと”風”の会
収録資料出版年月日 2016.9.1
言語 日本語
方言 標準語
備考 ¥750
収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。
奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。

このおはなしが伝えられた地域