子は清水
コ ワ シミズ
やさしい人が登場するおはなし|神秘的なおはなし
原文
昔から、関東灘とよばれる酒の名産地であった府中(石岡市)の村上村は、「村上千軒」といわれるほど大きな村であった。
頃は奈良朝の昔、この村に貧しい親子が住んでいた。息子は大変親孝行で、毎日山に出かけては薪をとり、それを府中の町に売りに行ってほそぼそと生活していた。そして、その売れた銭で年老いて病気がちの父親に少しばかりの好きな酒を買って帰るのが日課であった。
そんなある日、いつものように息子は、府中の町へ薪を売りに行ったが、その日は少しも売れなかった。売れない薪を背負って、しかたなくそのまま家路についた。村上の入口あたりに来ると、どこからか香しい匂いが漂ってきた。その香りの源をたどっていくと、木立のなかに清水がこんこんと湧き出ていた。息子は喜んで、この清水を腰の瓢につめて持ちかえり、父に飲ませると、父はこれは上等の酒(諸白)だと大喜びした。
翌日息子は、あまりの不思議さに、昨日の湧き水の場所に出かけて飲んでみると、それはただの清水であった。それ以来、毎日この清水を父に飲ませると、病気がちだった父も元気になって、二人とも幸せな日々を送ることができたという。そのことから、父親が飲むと酒の味がして、子どもが飲むと水の味がしたので、この清水を「親は諸白、子は清水」とよぶようになった。この噂は噂を呼び四方八方へ知れ渡った。
やがて、この話が、天子様のお耳にふれて「関東養老の泉」と命名された。これは、美濃の孝子の奇跡で、年号を改められた(西暦717年)という「養老の滝の伝説」に似た美談であるからだというのである
この「親が飲めば諸白、子が飲めば清水」という養老孝子伝説は、古くからこの地方に伝わっており、次のような和歌が詠まれている。
・なにし負う 鄙の府の 子は清水 汲みてや人の 夏や忘れん
・旅人の 立ちどまれてや 夏蔭は 子は清水とて 先ず掬うらん
市町村 | 石岡市 |
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原文著者 | 木村 進 |
原文著者(ヨミ) | キムラ ススム |
生年 | 1948年 |
原文著者備考 | 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる 現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表 昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒 大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。 著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員 |
原文著者 | LaLa mosura |
原文著者(ヨミ) | ララ モスラ |
原文著者備考 | イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。 |
媒体 | zine |
収録資料名 | 石岡地方のふるさと昔話 |
収録資料名(ヨミ) | イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ |
収録資料シリーズ名 | ふるさと風の文庫 |
民話ページ | P34 〜 P36 |
収録資料出版社 | ふるさと”風”の会 |
収録資料出版年月日 | 2016.9.1 |
言語 | 日本語 |
方言 | 標準語 |
備考 | ¥750 収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。 奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。 |
このおはなしが伝えられた地域