茨城の民話Webアーカイブ

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鈴ヶ池と片目の魚

スズガイケ ト カタメ ノ サカナ

伝説

動物が登場するおはなし|神秘的なおはなし|殿様や武将が登場するおはなし

原文

 昔、俗称、城中山(現在の石岡小学校の西)に鈴ヶ池と呼ぶ池がありました。そこには府中落城にまつわる悲しい物語が伝えられています。
 時は、天正十八年(1590年)12月22日。名実ともに堅城不落を誇り、連綿24代続いた大掾(だいじょう)氏も左近太夫浄幹(きよもと)の代に武運つたなく佐竹義宣により滅ぼされたのです。浄幹は戦死した父の後、5歳で家督を継いだが戦国時代末期の群雄割拠の時代で、毎日のように戦いに明け暮れており、この時まだ18歳であった。
 この天正18年春に豊臣秀吉が天下統一の最後の仕上げとして、小田原城の北条氏を攻め滅亡させた。そして、小田原攻めに参戦しなかった大掾氏は秀吉から常陸国を任された佐竹義宣によって滅ぼされる運命にあったのである。浄幹の妻は小川の園部城主の息女鈴姫といい、容姿美しい方であった。
 佐竹義宣は、難攻不落と言われた府中城攻略のため、まず園部城(小川)を打ち落とし、その園部の軍勢をもって府中へ、府中へと攻め寄せさせたのです。府中城の周りには出城や砦を多く持っていたが、これも次々に陥落し、城に残っていた浄幹のもとに砂塵をけってはせ参ずる注進は、いずれも味方の敗北のみであった。浄幹の無念やるかたなく、鈴姫の悲嘆はいかばかりであったろう。見方と思っていた園部氏も今は敵。敵が目の前まで迫り、いよいよ観念のほぞを固めた城主浄幹はついに部下に命じて館に火をかけさせた。歴史的名城、府中城もたちまちのうちに、火の海と化し、黒煙と火の粉は勢いよく大空に舞い、突然、夢破られた夜鴉の群れは塒(ねぐら)を捨てて戸惑い舞い狂った。
 この燃えさかる炎の中、浄幹はついに乱心し、づかづかと鈴姫に迫り
「そなたの父、園部も今日は敵だ。そちも、また、わが妻でないぞ。思い知れ」
とばかり、手にする刀で鈴姫の片目につきさした。そして、燃えさかる火中に浄幹は身を投じ、城と運命をともにしたのです。
 片目に死の烙印を押された鈴姫は、焼け落ちる棟木の火明に、身悶えの姿も哀れに城中の池へ身を投じたのであった。なんと悲しい最後であったか。かくして名城府中城は亡びたのである。
 それから後、この池にすむ魚は、不思議なことにみな片目で、悲劇的な鈴姫の恨みの表われだと語りつがれている。

 

市町村 石岡市
原文著者 木村 進
原文著者(ヨミ) キムラ ススム
生年 1948年
原文著者備考 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる
現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表
昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒
大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。
著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員
原文著者 LaLa mosura
原文著者(ヨミ) ララ モスラ
原文著者備考 イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。
媒体 zine
収録資料名 石岡地方のふるさと昔話
収録資料名(ヨミ) イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ
収録資料シリーズ名 ふるさと風の文庫
民話ページ P27 〜 P30
収録資料出版社 ふるさと”風”の会
収録資料出版年月日 2016.9.1
言語 日本語
方言 標準語
備考 ¥750
収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。
奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。

このおはなしが伝えられた地域