化け鼠と12匹の猫
バケネズミ ト ジュウニ ヒキ ノ ネコ
動物が登場するおはなし|お坊さん、神主さん、小僧が登場するおはなし|妖怪が登場するおはなし
原文
昔、今の石岡が常陸の都であった頃、筑波山は多くの民衆の信仰の山でした。そしてこの筑波山の寺に御参りする人がたくさんおりました。そんな頃、ある一人の汚らしい身なりをした旅の僧侶が筑波山の峠を越えて府中(今の石岡)を目指して下りてまいりました。山の峠を越える頃からあたりは薄暗くなり始めておりました。
ここから府中の街まではまだ大分あるので、旅の僧侶はどこかで今宵の宿を探さねばなるまいと、夕暮れの坂道の途中で野良仕事をしていた村人を見つけて声をかけました。
坊主:見ての通りの諸国行脚をしている旅の坊主であるが、このあたりに泊めてくれる寺などは無いかな
里人:寺はこの先にあることはあるが、もう長いこと無住で荒れ果てております。ここを少し下った先には小幡の街があり、旅籠もありますので、そちらに泊まられたら良かろう。
坊主:そのような寺こそ、修行の身のわしが泊まるのにもってこいじゃ。
そして旅の僧は、村人に礼を言ってその山寺に泊まることにしました。
たしかに村人がいうように寺は荒れ果てておりましたが、周りは木々に覆われ、静寂な雰囲気の比較的大きな寺であり雨露をしのぐには十分でした。僧侶は寺に入るとまず、務めのお経を唱え、そして広間に横になり眠ろうと目を閉じてしばらくしてから、自分の所に近づいてくるものの気配を感じました。
僧侶がじっとしておりますと、それは枕元に近づき静かな声でしゃべりはじめました。
「私はこの寺に住む猫でございます。この寺にはそれは大きな化け物の大ネズミが住んでおります。そして、この大ネズミは人を食い殺したりする凶暴なネズミでどうしようもありません。すでに私の仲間なども何匹か殺されてしまいました。私もネズミの言うことをきかないと殺されてしまいます。どうにかしたいのですが、私一匹ではとても敵いません。どうかお坊様の力で、他に11匹の猫を集めてきていただきたいのです。そして私共にお坊様の法力をお授け下さい。そうすれば12匹の猫でこの化けネズミを退治したいと思います。どうかお願いします。」
坊主が目を開けるとそこには大きな猫が一匹ちょこんと座っていました。
あまり話が真剣であったので坊主も頷きますと猫はそっと戻っていってしまいました。
そこで坊主は翌日、近くから大きな猫を11匹集め、寺に連れて戻りました。そして夜になるとまた昨日の猫が現れたので、坊主はすべての(12匹の)猫を並べてお経を唱えました。猫は親分の猫にしたがって静かに寺の奥の方に消えて行きました。すると、夜中になり、天井裏や壁の向こうからものすごい大きなうなり声やドタンバタンの大音響が響き渡りました。これがしばらく続いたのですがやがて辺りは静かになりました。朝になって見てみると、お寺の中にそれはそれは大きな一匹のネズミと12匹の猫が死んでいました。
僧侶は12匹の猫と1匹のネズミを丁寧に葬って十三の塚を築いたのでした。このためこの地域を十三塚と呼ぶようになったといわれています。
市町村 | 石岡市 |
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原文著者 | 木村 進 |
原文著者(ヨミ) | キムラ ススム |
生年 | 1948年 |
原文著者備考 | 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる 現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表 昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒 大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。 著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員 |
原文著者 | LaLa mosura |
原文著者(ヨミ) | ララ モスラ |
原文著者備考 | イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。 |
媒体 | zine |
収録資料名 | 石岡地方のふるさと昔話 |
収録資料名(ヨミ) | イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ |
収録資料シリーズ名 | ふるさと風の文庫 |
民話ページ | P16 〜 P19 |
収録資料出版社 | ふるさと”風”の会 |
収録資料出版年月日 | 2016.9.1 |
言語 | 日本語 |
方言 | 標準語 |
備考 | ¥750 収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。 奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。 |
このおはなしが伝えられた地域