蛇の子を生んだ奴賀姫
ヘビ ノ コ オ ウンダ ヌカヒメ
動物が登場するおはなし|結婚するおはなし|神様や仏様が登場するおはなし
原文
むかしむかし今から1300年以上前のお話です。竜神山の麓から約一里半(約6㎞)ほどいった片岡村(現石岡市片岡)に大変仲の良い二人の兄妹が住んでいました。兄の名前は奴賀比古(ぬかひこ)、妹は奴賀姫(ぬかひめ)といいました。妹の奴賀姫はたいへん器量が良いと評判でした。
その奴賀姫が年頃になったある晩のこと、ひとりで部屋にいると表戸をトントンと誰かが叩く音がします。奴賀姫がそっと表戸を開けると、そこには絵に書いたような美男子が立っていました。一目見てその美しさにうっとりとしてしまいましたが、その若者はだまって夕闇の中に消えていってしまいました。また次の夜もその若者はやってきて、またそのまま帰って行く日がしばらく続きました。奴賀姫はその若者が来るのが待ち遠しくてなりませんでした。そして、その若者の事が頭から離れなくなっていたある晩、ついにその若者は奴賀姫のもとに近づき、結婚を申し込んできました。奴賀姫も待ちわびていたところですから喜んでこれを受け入れ、すぐに夫婦となりました。
それから二人は幸せな毎日を過ごし、やがて奴賀姫に子供が生まれました。しかし、生まれた子は小さな体で、顔は人間で体が蛇だったのです。その子は、昼間は押し黙ったままで、夜になると奴賀姫に語りかけてきました。奴賀姫は夫が蛇の化身であったことを知り、この子はきっと神の子供であろうと、兄と相談して家の中に祭壇を作って浮き杯の中にその子供を入れて供えたのでした。しかし、次の日にはもう大きくなってしまって浮き杯では小さすぎたので、今度は瓮(ひらか:物を運ぶ盆)に入れ替えてやりました。だが、またすぐに大きくなり瓮でも入りきれなくなり、今度は大きな甕(みか:酒を入れるかめ)に入れ替えました。しかし、これも小さくなって、家中もうこれ以上大きな器がなくなってしまいました。
そこで奴賀姫はその子に、
「あなたの不思議な力を見ていると神の子なのだといふことがよくわかります。わたしたちの力では育てきれません。どうか父の神のところへ行って下さい。」
と話すと、蛇の子はしばらく悲しんでいましたが、ようやく決心したように
「私は一人では父の所に行くことはできません。どうぞお供を一人つけて下さい。」
と言いました。奴賀姫は
「見てわかる通り、この家は兄と私の二人きりです。ですからその願いを聞くことはかないません。」
と願いを退けました。その言葉を聴くと蛇の子は、急に怒りが顔に現れ、口より炎のような真っ赤な舌を出したかとみるや、その色は緑色に変わり、兄の奴賀比古をめがけて襲いかかってきました。驚いた奴賀姫は側にあった瓮を投げつけると、瓮がその蛇の子に当たり、蛇の子は神通力を失って死んでしまいました。
この蛇の子供の亡骸を片岡部落の入口の塚に葬って供養をすると、やがてその蛇の子は竜になって、竜神山の峯に昇りそこにとどまったと言われています。兄妹の子孫は、社を建て蛇を祭ったので、家が絶えてしまうことはなかったそうです。
市町村 | 石岡市 |
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原文著者 | 木村 進 |
原文著者(ヨミ) | キムラ ススム |
生年 | 1948年 |
原文著者備考 | 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる 現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表 昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒 大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。 著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員 |
原文著者 | LaLa mosura |
原文著者(ヨミ) | ララ モスラ |
原文著者備考 | イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。 |
媒体 | zine |
収録資料名 | 石岡地方のふるさと昔話 |
収録資料名(ヨミ) | イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ |
収録資料シリーズ名 | ふるさと風の文庫 |
民話ページ | P12 〜 P15 |
収録資料出版社 | ふるさと”風”の会 |
収録資料出版年月日 | 2016.9.1 |
言語 | 日本語 |
方言 | 標準語 |
備考 | ¥750 収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。 奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。 |
このおはなしが伝えられた地域