茨城の民話Webアーカイブ

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柏原池の美少女

カシワバライケ ノ ビショウジョ

伝説

動物が登場するおはなし|神様や仏様が登場するおはなし

原文

 もう今からずっと昔のことです。
 石岡が府中とよばれ、今石岡小学校があるところに平氏の本家である大掾氏(だいじょうし)が城を築いていた頃のお話です。その頃、街はずれにある柏原池は今の何倍もの大きな池で、すぐそばにそびえる竜神山からきれいな水が絶えることなく流れておりました。街にはお城の侍や商人たちが何時もあふれていてにぎやかな日々が続いていました。そんなある時、町の人びとの間で月の美しい晩にこの柏原池にそれは美しい少女が現れるといううわさ話が広がりました。また、この様な晩に竜神山から竜が池に向かって舞い降り、朝方に山の頂めがけて長い竜がくねくねと登って行くのを見た人がいるとの話もありました。これは竜神山の竜が美しい少女に化けてやって来ているのだと噂は広がって行きました。街の若者たちは皆、例え竜でもこの美しい娘を一度で良いから見て見たいものだと話しあっていました。
 そんな中、一人の府中の街で評判の勇敢な若武者がこの噂の美少女に一目でよいから会いたいものだと出かけて行きました。それは、月の澄んだ静かな秋の晩のことでした。池には周りの木々の影が月明かりで墨絵のように映り、池の表面は鏡のように静かで月もその姿をくっきりと写し、絵にも言われぬ美しい光景が広がっていました。若武者は池のほとりに腰かけると、手にした横笛を口に当て静かに吹き出しました。静かな池に美しい音色が響いていきました。すると何処からともなく美しい娘が現われ、この若武者の横に腰かけ、二人はぴったりと寄り添うように腰かけました。二人は美しい景色を眺め、若者が吹くうつくしい笛の音が二人を包んでいきました。誰が見ても美しい男女はお似合いの二人に見えました。二人は夜の更けるのも忘れ、楽しそうに語らい、また池の周りを仲良く肩を寄せ合い歩きまわりました。その二人の姿は鏡のような池に映り、二人もそれを楽しむかのようにいつまでも離れようとしませんでした。
 やがて夜が明け、翌朝になって村人が池に行ってみると、この美しい若武者は水面に死体となって浮かんでいました。しかしその顔は幸せそうに微笑んでいたと言います。
 村人たちは、この若くて美しい若武者を憐れみ、ねんごろに葬り、池の畔に祠を建てました。
 若武者の死後、この美しい少女は姿を表すことはなくなり、村人もこの娘は竜になって竜神山に帰ったにちがいないと噂したのでした。そして、それからしばらくして子供たちの間で不思議な遊びが行われるようになりました。この池のほとりに建てられた祠の廻りを、息をつかずに足けんけんして、三べん廻ると竜が出てくると誰とも無く言い始めたのです。でも誰も怖がって途中で足をついたりして最後まで廻った子供はいないのです。どうですか、竜神山の美しい竜に会いたいと思ったら祠の廻りで遊んでみませんか?竜は姿を見せずとも、きっと竜の鳴き声が聞こえたり、大空を美しく舞う竜の姿を見ることができるかもしれません。

 

市町村 石岡市
原文著者 木村 進
原文著者(ヨミ) キムラ ススム
生年 1948年
原文著者備考 昭和23年 新潟県小千谷市に生まれる
現在 茨城県石岡市在 (株)アルテック 代表
昭和49年 慶応大学工学部大学院(修士)卒
大手電機メーカで設計などに従事、定年退職後ふるさとに眠る埋もれた歴史などを掘り起こし、ブログや書籍で活動をしている。
著書に「ちいきに眠る埋もれた歴史シリーズ」がある。「ふるさと風の会」会員
原文著者 LaLa mosura
原文著者(ヨミ) ララ モスラ
原文著者備考 イラスト 現在 茨城県石岡市 在 中学生 小学6年生の11月からイラストを描き始め、絵はすべてのモノに命があり、土や水にも顔があると考えて描いている。想像の世界のキャラクターたちがカラフルに描かれた独特のイラストが評判を呼び、地元を中心に個展を数回開いている。
媒体 zine
収録資料名 石岡地方のふるさと昔話
収録資料名(ヨミ) イシオカ チホウ ノ フルサト ムカシバナシ
収録資料シリーズ名 ふるさと風の文庫
民話ページ P3 〜 P7
収録資料出版社 ふるさと”風”の会
収録資料出版年月日 2016.9.1
言語 日本語
方言 標準語
備考 ¥750
収録資料シリーズ名および収録資料出版社は、標題紙による。
奥付には「風の文庫」「地域に眠る埋もれた歴史シリーズ(別冊1)」とある。

このおはなしが伝えられた地域