以前、水戸市岩根町根本に、水を満々とたたえた沼がありました。
フナやコイ、シジミなどの漁ができるほどの広い沼でしたが、那珂川の増水のたびに土砂に埋まり、今はその名残すらありません。
水の涸れたくぼ地に、ススキやヨシが生い茂っているだけです。
むかし、この近くに、たいそう働き者の若い樵が住んでいました。
ある日、若者は、仕事中に、大事な斧（＝よき）を、沼の中に落としてしまいました。
若者は、あわてて、沼の中に飛び込みましたが、沼は思ったより深く、斧は簡単には見つかりませんでした。
若者が必死で探しまわっていると、突然、日の前に美しい女の人が現われ、「あなたの探しているものは、これですか。」と、金色に輝く斧を差し出したのです。
若者は、驚いて、「いいえ、私の斧は、そんな立派なものではありません。使い古しの鉄の斧です。」と答えました。
すると、女の人は、「正直な方ですね。」と、にっこりほほえみ、落とした鉄の斧と金の斧との両方を若者に持たせたのでした。
それから、若者は、幸運が続いて長者となり、やがてこの沼は「よき（斧）沼」と呼ばれるようになったということです。