むかし、東野寺地内（千代田村）のお寺に、瑞蓮という和尚さんがすんでおりました。
ある晩のこと、「ずいれん、ずいれん。」と、和尚さんの名を呼びながら、しきりに戸をたたく者がおりました。でも、戸をあけてみると、外には誰もいないのです。
それ以来、毎晩毎晩、何者かが戸をたたいてはさけぶので、うるさくてたまりません。
ある夜、和尚さんが息をころしてそーっと近づき、サッと戸をあけると—そこにいたのは、狸ではありませんか。
「こらーっ、いたずら狸め。こらしめてやる。」と、追いかけましたが、狸はすばしっこくて、いっこうにつかまりません。
そのうち、本堂に逃げこむと、なんと阿弥陀様に化けてしまったのです。
見くらべる和尚さんにも、どちらが本物かわからないぐらいうまく化けていました。
これには、和尚さんもお手上げでしたが、しばらく考えたすえに、名案がうかびました。（よし、阿弥陀様にはもうしわけないが、両方にお灸をすえてしまおう。）
もぐさに火をつけ、しばらくすると、たえかねたにせものがあばれだしたので、簡単にばれてしまいました。
とりおさえられた狸は、和尚さんに、もっと大きなお灸をすえられたので、その後は、姿を見せなかったということです。