むかし、神之池の溝口（現在の鹿島郡神栖町）に、五郎兵衛という漁師がおり、妻と娘のおとりと三人で平和にくらしておりました。
ところが、ある年のこと、どうしたことか魚がさっぱりとれなくなってしまったのです。困りはてた五郎兵衛は、神之池の神様にお願いをしました。
「神様、どうか前のように魚がたくさんとれるようにして下さい。このままじゃ、くっていけません。もし願いをかなえて下さったら、おとりをさしあげます。」
すると、次の日から大漁が続き、願いが通じたと大喜びをしておりました。
何日かたったある晩のこと、五郎兵衛の家に大蛇があらわれました。
「わしは、神之池の主じゃ。約束通りおとりをもらいにきた。」と言うと、娘をつれていこうとするのです。
五郎兵衛はおどろき、「おとりとは娘のことではありません。鳥居をたててさしあげるといったのです。どうか娘だけはおゆるし下さい。」と泣いてたのみました。しかし、大蛇はいやがるおとりをむりやりひきずり、水底深く沈んでいってしまったということです。
その時、おとりがいやがり、手をかけてすがりついた松の木を「おとり手掛松」と呼んでいたそうですが、今は枯れはて、影も形もありません。