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動物が登場するおはなし|こっけいな人・愚かな人が登場するおはなし

再話文

この話は出島村、今のかすみがうら市に住んでおられた方から聞いたお話だそうです。
むかしむかし、ある村にばかな息子が住んでいました。
朝起きると寒いのでいろりに当たっていました。するとだんだん暑くなってきました。
「父ちゃん、暑いから大工を頼んでいろりを動かしてもらえないかなあ?」
と息子が言いました。すると父親は、
「ちょっと立て。」
といって、息子を立たせて、ざぶとんをいろりから離しました。そして
「ここに座ってみろ。」
と父親が息子に言うと、息子はそのざぶとんに座りました。
「父ちゃん頭いいなあ。」
と息子は父親のしたことに感心していました。
父親はこんなばか息子には、結婚相手が見つからないだろうと心配になり、
「お前はあまりにも世間知らずだ。江戸を見て頭を磨いてこい。」
といって、息子を江戸へ行かせることにしました。
ばか息子は江戸に旅立ちました。江戸へ着くやいなや、息子はあちらこちらと見物しました。そんな中ある家の軒先に犬の皮※1 が干されているのを見かけました。
ばか息子はその家の人に、
「これはなんて言うんだい?」
するとその家の人が
「犬皮(けんぴ)っていうんだよ。」
と教えてくれました。ばか息子は、
「江戸では犬のことを『けんぴ』って言うんだ。」
と覚えてしまいました。
もう少し町を歩いていると、ある家の軒先に馬の皮が干されていました。
「これはなんて言うんだい?」
そう尋ねるとその家の人は、
「馬皮(ばひ)っでいうんだよ。」
と教えてくれました。ばか息子は
「江戸では馬のことを『ばひ』って言うんだ。」
と覚えてしまいました。
広くて人通りの多い江戸は、大八車もせわしく動いていました。
ある日ばか息子が道を歩いていると、大八車に荷物を積んだ状態で人足たちが休んでいました。
一休みを終え、親方は「やるべえさあ!」と大八車を引きはじめました。
その様子を見ていたばか息子は、
「江戸では大八車のことを『やるべえさあ』って言うんだ。」
と覚えてしまいました。
今度は、真っ赤なお膳とお椀を販売しているお店の前を通りました。
ばか息子は、
「これはなんて言うんだい?」
そう尋ねると店の人は、
「しゅぜん(朱膳)としゅわん(朱椀)って言います。」
と教えてくれました。ばか息子は
「江戸では赤いものを「しゅぜんしゅわん」っていうんだ。」
と覚えてしまいました。
そして、ばか息子は江戸から村へ戻りました。
道路沿いに立っているお地蔵さまの前を通りかかるとおそなえの団子がひっくりかえっていました。小腹が減っていたばか息子は、
「お地蔵さまは自分で拾うことなんてできないんだから、食っちゃえ。」
と団子に手を伸ばそうとしました。するといきなり犬が飛び出してきてばか息子に吠えました。
「けんぴだあ!」
ばか息子は大慌てで逃げ出しました。すると犬は追いかけてきます。鍛冶屋の前まで来ると馬がいたので馬の陰に隠れました。すると馬はびっくり。暴れはじめてしまいました。
ばか息子は馬から逃げ出すときに、近くにあった大八車につまずいてしまいました。そして足から血がたらたらと流れ出しはじめました。
「痛えよお、痛えよお。」
と足を引きずりながら、やっとの思いで帰宅しました。すると父親は
「お前、その足はどうした?」
そう尋ねると、ばか息子は覚えたての江戸ことばでこう答えました。
「『けんぴ』が吠えてきたんで逃げたら、『ばひ』がたまげたんで、さらに逃げたら近くにあった『やるべえさあ』につまずいて擦りむいちゃって、『しゅぜんしゅわん』なものが出てきちゃんたんだよ。」
とな。おしまい。

※1:当時三味線用に猫の皮と同じように使われていました。

 

市町村 かすみがうら市
旧市町村 霞ヶ浦町
原文著者 本アーカイブのための書き下ろし
原文著者(ヨミ) カキオロシ
媒体 その他
収録資料名 本アーカイブのための書き下ろし
収録資料名(ヨミ) カキオロシ
言語 JPN
方言 標準語
備考 本作品は、以下の作品を参考にして書き下ろしたものです。
参考:日本児童文学者協会編 県別ふるさとの民話36 茨城県の民話 偕成社 1982.06 pp.88-92 とってもゆかいなわらい話 江戸ことば 再話:井川沙代(1942年生)

このおはなしが伝えられた地域