常陸国風土記を訪ねる

童子女の松原公園(おとめのまつばらこうえん)

『常陸国風土記』に記されている男女の恋の物語の舞台となった場所で、愛し合う男女が松の木に変身したという伝説にちなんだ公園です。園内には古代の姿をした男女2人の立像が建てられています。このほかにもところどころに土器や常陸国風土記の物語が記されています。永遠の愛を誓った2人の決して変わることのない絆にちなんだ童子女の鐘が設置されており、美しい鐘の音が園内に響き渡ります。

指定の種別 未指定
市町村名 神栖市
所在地 神栖市波崎9594-1
担当課 神栖市教育委員会文化スポーツ課
電話番号 0479-44-6496
参考URL 童子女の松原公園
常陸国風土記の記載内容
香島郡

軽野の南に童子女の松原がある。むかし、那賀の寒田のいらつこ、海上の安是のいらつめといふ、年若くして神に仕へてゐた少年と少女がゐた。ともにみめ麗しく、村を越えて聞こえてくる評判に、いつしか二人はひそかな思ひを抱くやうになった。年月が立ち、歌垣の集ひで二人は偶然出会ふ。そのときいらつこが歌ふに、

 「いやぜるの 安是の小松に 木綿垂でて 吾を振り見ゆも 安是小島はも」
(安是の小松に清らかな木綿を懸け垂らして、それを手草に舞ひながら、私に向かって振ってゐるのが見える。安是の小島の……。)

いらつめの答への歌に、

「潮には 立たむといへど 汝夫の子が 八十島隠り 吾を見さ走り」
(潮が島から寄せる浜辺に立ってゐようと言ってゐたのに、あなたは、八十島に隠れてゐる小島を見つけて、走り寄ってくる。)

ともに相語らんと、人目を避けて歌垣の庭から離れ、松の木の下で、手を合はせて膝を並らべ、押さへてゐた思ひを口にすると、これまで思ひ悩んだことも消え、ほほゑみの鮮かな感動がよみがへる。玉の露の宿る梢に、爽やかな秋風が吹き抜け、そのかなたに望月が輝いてゐる。そこに聞こえる松風の歌。鳴く鶴の浮州に帰るやうに、渡る雁の山に帰るやうに。静かな山の岩陰に清水は湧き出で、静かな夜に霧はたちこめる。近くの山の紅葉はすでに色づき始め、遠い海にはただ青き波の激しく磯によせる音が聞こえるだけだ。今宵の楽しみにまさるものはない。ただ語らひの甘きにおぼれ、夜の更け行くのも忘れる。突然、鶏が鳴き、犬が吠え、気がつくと朝焼けの中から日が差し込めてゐた。二人は、なすすべを知らず、人に見られることを恥ぢて、松の木となり果てたといふ。いらつこの松を奈美松といひ、いらつめの松を古津松といふ。その昔からのこの名は、今も同じである。