常陸国風土記を食べる

風土記御膳・風土記弁当の開発にあたって

永山 久夫 氏

食文化史研究科・西武文理大学客員教授

土地がよく肥えていて、稲が豊かにみのり、山海の美味・珍味に恵まれた土地、それが『常陸国風土記』に出てくる古代の茨城県です。

このため、常陸の国こそ『常世(とこよ)の国』ではないだろうか、といわれていました。不老長寿の理想郷こそ、古代の日本人があこがれていた「とこよ」です。この国には、神住む筑波山があり、そこは若い人たちが歌をかけ合いながら、出会うためのロマンスあふれる場所でもあったのです。海には魚や貝、海藻がたくさんあり、山にはよく肥えたイノシシやシカ、鳥が多く、川ではアユやサケなどがさわ(たくさん)とれました。

常陸は「山海の珍味」の多い国とあり、面白いことに「握り飯」、つまり、おにぎりという言葉が出てくるのです。穀物がたくさんとれることから、赤米や粟、黄金色のキビなどのカラフルな「握り飯」を作り、野がけ(山遊び)を楽しんでいたのでしょう。

『常陸国風土記』の食材を中心とした御膳・弁当のレシピの開発事業では、古代の「とこよ」、そして常陸の国を来訪したと伝えられるヤマトタケルの「たける」、筑波山で海の幸や山の幸を持ちよってみんなで大地のめぐみに感謝してうたいおどる「かがい」、風土記にある「ちんみ(珍味)」をキーワードに、古代の料理を再現しました。食べたら、これが実にうまくて楽しいのです。

「とこよ」はワクワクするような長寿国のことであり、その長寿を支えていたのが風土の食。風土記には、常陸の国の長寿食材がたくさん出てきます。それらは現在でも入手可能であり、海の幸も食べることができます。これからの日本は、自立して長生きする「健康長寿」の時代。長寿時代を楽しむためにも県が行っている風土記御膳・風土記弁当のレシピの開発がお役に立つのは間違いありません。

今回の古代食再現は、日本人ばかりではなく、世界の人たちにもアピールできるのではないでしょうか。常陸の国は国振りの豊かな美食の土地であり、長寿の国なのです。